春の銅鑼出航の潮青増して 鈴木一瞬
海に港、港に船、船にドラ……。
船が港を離れる出航に際して、あのドラを考え出したのは、いつ頃が初めで、そして誰だったのでしょうか……。思えばその人は大変な詩人だと思います。いやが上にも離別の哀しみを深め、また逆に門出の喜びを演出する……あの言うに言われぬ音色……。
いまし春……。そのドラの音に送られて、船は真っ青な海面をゆっくりと走り出しました。
船尾が海に描く白い水脈(みお)……。吹く風も爽やかに、大らかに舞う海鳥ち……。
陽の光は眩しく海に差し、遠くに霞む低い岩の姿ものどかです。岸壁の人影は見る間に小さくなって行きますが、まだ手を振っています。
行き交う船同士は互いに警笛を鳴らして海の挨拶をし、船内にはきっと都はるみさんの、あのうなり節の歌が流れていることでしょう……。
潮の色はますます青さを増し、海路は平安……。
説明のしがたい、希望の雰囲気にすべてが包まれて、思わず知らず口笛の一つも吹きたくなるようなのどけさです。
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