セーター編む写真の顎に当てて見て 松倉ゆずる
離れて遠いところに住んでいるいとしいお孫さんのセーターを編んでいます。
そばにいれば直接その体にあてて寸法を測れるのですが、それができません。ですから箪笥の上にいつも飾ってある、それもごく最近お孫さんの写真の顎のあたりに、編みかけのセーターを合わせてみているのでしょう。
そうした中年初老の奥さんの姿を、お茶でも飲みながら満足そうに見ているご主人も、奥さん同様に幸せなのです。
平凡でありながら、平凡であるための、いつの世も変わらぬ人間の営みの誠実さ、静けさ…
「おいあんまり根(こん)を詰めると肩が凝るぞ」と、ぼそり一言、ご主人が奥さんに優しい言葉をかけたことでしょう……。
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