メロン食ぶ銀のスプンも形見なる 小塩加寿子
香りがすぐれた果物であるメロンは、露地ものが明治のはじめに、温室ものが同じ明治の末に日本に入ったといわれます。いまでは一年中口にすることができますが、夏の季語となっています。
彼女はいま、亡き母の形見である銀のスプーンでメロンを食べています。いまでこそ銀のスプーンは珍しくもさほど高価なものでもありませんが、昔は豪華なものでした。
おかあさんはきっと裕福な家庭にお乳母日傘で育ち、ぜいたくなくらしをしていたのでありましょう。銀のスプーンはお嫁にくるとき持ってきたのかも知れません。
長い年月の経過をしのばせて、それこそ文字通りイブシ銀となっているスプーンでメロンを食べるのが、おかあさんの最大の愉しみでした。
親に似て、彼女もこの果物が大の好物です。果汁豊かで甘い、かぐわしい匂いのメロンを口にしていると、ごく自然に高貴な気分に浸ることができ、同時に、知的で礼儀正しかった母がことのほかいとおしく思われるのです。
額ぶちに入れて飾ってある笑顔の母の写真に視線を送り、<おかあさん、あたし一人だけ食べていてごめんなさいね!!>と、彼女はきっと涙ぐましくなっているのでありましょう
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