子の部屋の散らかりしまま若葉雨 佐藤桂子
家の中の片づけが一段落して、三十歳代半ばのその女(ひと)は、廊下に立ったままガラス窓越しに外を眺めています。
艶々しい若葉を濡らして暖かい雨が静かに降っています。
ただそれだけの風景なのに、心はしっとりと落ち着いてきました。
<家の中にばかりいて、小さな平凡な明け暮れだけど、あたしにはこれが一番大切なんだわ。……そうそう、久々に実家の母に長い手紙を書こうかしら……。ああ、そうだわ、その前にあの子のお部屋を掃除しなければ……。“僕が学校から帰ってくるまでに綺麗にしといてよ、頼むよママ!!”って頼まれたんだわ……。それに今日はうちのひとの誕生日、プレゼントは何にしようかしら……>
平凡であることをむしろそっと讃えるかのように、雨は相変わらず若葉を濡らし続けます。
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