一つ帆の沖に動かぬ昼寝覚め 加藤菊代
当マイクロフォンがいつも憧れている、此処は海辺のお住居(すまい)なのでしょう。
この家(や)の主婦は、毎日獅子奮迅の勢で家事に精を出し、そのあと一時間か一時間半、昼寝をする習慣が続いています。
部屋からは海が見えます。
今日は帆掛け舟がたった一つ見えます。昼寝からめざめ海をもう一度見ると、帆掛け舟は、眠りに落ちる前と同じ位置にいます。
でもそんなことはないのです。船はゆるやかなながらも動いているのです。動いていて、動いているように見えないほど緩(ゆ)っくり動いていたのです。
昼寝という長閑けさ、帆掛け舟という長閑けさ、舟が少しも動いていないほどの長閑けさ……。そうです。すべてが長閑なのです。
永劫という時の流れの中の、ほんの短い時間に寄せて、作者のまろやかな情緒を、このマイクロフォン、門外漢ながら素晴らしいと思います。
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