女湯は赤暖簾なり山眠る 木村 佐和
女湯というのですからお風呂には違いないのですが、とすれば、銭湯か村の共同浴場のような所……、いいえ、ここはおそらく山間の旅館の温泉ではないでしょうか……。その入り口に、赤い布地の暖簾が掛かっていて、筆太な達筆、それもひら仮名で<をんなゆ>と書かれているかもしれません。とすると男湯の方はどんな暖簾でしょうか?
当マイクロフォンはの貧しい想像力では、淡い紺色ではないかと思います。こういう季節ですからお客さんはまばらです。あっという間に陽は暮れて、辺りは森閑としています。そして、暗闇の中に息を潜めるようにして山々は眠っています。夜空に寒星が瞬いていれば、あるいは月が照っていれば、あまり高くない辺りの山々は、その輪郭がほのかに見えるはずです。
そうした静けさの中で、女湯の暖簾の赤の鮮やかさが訴えかけてくるものは、旅の歌人若山牧水の<ややすこし遅れて湯より出るひとを待つ身悲しき上草履かな>の情緒に似通うものかもしれません。
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