海見えて一月の墓はればれと きくち・つねこ
そこから海が見えているのであれば、どこのお寺の、どんな墓地を想像してもいいように思われます。でも、春の日のように麗かに晴れていなければなりません。海もあくまでも凪いで、鏡の面のように静かでなければなりません。
そうした一月のある日、ある時。作者は普段から散歩の場所と決めている通い慣れたこの寺を訪れました。彩り豊かな他の季節とは異なり、いまはこれといって特に目を惹くようなものはありませんが、この穏やかさには心を洗われる想いです。境内にはきっと年古りし大きな松の木があることでしょう……。
寺の裏側の墓地には竹林もあることでしょう……。それらを静かに揺らす風の音に耳を傾けるようにして、一つ一つの墓は淋しげなどころか、むしろ晴ればれとしているようにみえます。次の世も満更ではないなと、ふとそんな心が湧いてきて、作者の顔には微笑みすら浮かび、身内のものが眠っている墓だけでなく、そこにあるすべての墓に、一つ一つ話しかけたいような慕わしい想いになっていることでありましょう……。
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