新涼や吊革が揺れ電車揺れ 高橋 勇三
秋になって交わす挨拶、たとえば「やっと秋らしくなりましたねぇ」とか、「めっきり涼しくなりましたね」といった感じが、新しい涼しさと書く<新涼>で、この<新涼>は<秋涼し>とか<涼新た>とも言います。
灯ともし頃でしょうか、電車が走っています。おそらく作者はその電車には乗っておらず、線路の傍らかどこかに立っていて、走り過ぎる電車の様子を一瞬目に捉えたのででしょう。当マイクロフォンは、乗客があまり乗っていない電車を想像します。
電車は揺れながら走り、それに応じて吊革も揺れます。人の手がかかっていない吊革も沢山あって、それがいかにも所在投げに左右に揺れ、主のいないもの淋しさを感じさせます。
まだ、完全な夜にはなっておらず、したがって電車の中の灯りもなんとなく中途半端な色合いで、だからこそ余計にものの哀れを誘うのでしょう。
極くごくありふれた光景に感じた作者の詩情に、共感をおぼえます。
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