灰皿の煙りひとすぢ梅雨籠り 山崎 弘詩
暦の上では今年の梅雨入りは六月十一日となってはいますが、各地の気象台が宣言を発するまでは、その時期は確かとは分りません。しかし、この頃からおよそ一か月は、好むと好まざるとにかかわらず雨の季節です……。北のオホーツク海の高気圧と、南の洋上の、北太平洋亜熱帯の高気圧の不連続線、つまり梅雨前線が居すわって、雨を降らせるのだ……ということですが、恥ずかしながら当マイクロフォン、科学的なことは全く苦手です。梅の雨……と書くのは、ちょうど、梅の実が熟するからであり、黴(かび)の雨と書く<黴雨>は、この頃黴が生えるからだと、歳時記は説明しています。
当マイクロフォンは六月生まれですので、今は亡き母のためにもこの月を厭いはしませんが、降り続く雨を鬱とおしいと思う気持もないではありません。たとえば、書きものをしている最中など、さてこの先どう綴るかなどと思案して、吸いたくもない煙草にまた火をつけ、それを灰皿に置いたまま紫の煙の行方を、なにげなく目で追っている情緒は、この句に詠まれているようにいささか、風流でもあるようです。
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