« 2006年3 月 | メイン | 2006年6 月 »
あじさゐの雨を寒がる女かな 野村 喜舟
「よく降る雨だな。でも慎ましい雨の降り方だねぇ。それほど強くもなく……、かといってそう弱くもなく、水が好きな紫陽花を濡らす雨の勢いとしては、実に願ったり叶ったり……というか、いい降り方だ。ねえどうしたんだね、蒼い顔をして、寒いのか?寒いんなら早く何か着なさい。風邪を引いたら大変だよ。紫陽花に雨か……、あたしにお前か……。世の中、いろんなことがある……。なんにもしてやれないが、あたしの傍から離れないでほしいよ!!」
二の腕を出して五月の厨妻 茶木アイ子
「いやぁ、まめに働くねぇ。どんな御馳走ができるのかな、愉しみだねぇ……。おいおい君、半袖じゃないか。白い太い腕……太いは余計だったかな……これは失礼……。美しい腕を出して寒くないのかね!?そうか、そういえばすでに五月だな。色とりどりに花は咲き、鳥は歌い、風麗らかに薫り。そして君の腕(かいな)白く悩ましき五月だなぁ……。五月がわたしは一年のうちでいちばん好きだよ。なにかこう希望が持てる。もういい歳なのに、なぜか大きな希望が湧いてくるんだな!!満天下緑濃き五月、いいねぇ、ほんとにいい!!」
白木瓜や乳房吸はれしことのなく きくちつねこ
「男運が無かったというのかしら。この歳までずうっと独りで暮らしてきて、別段それほど淋しいと思ったことはないんだけど……。変な話ですけど、本当を言えば、子供の母親になってみたかったわ……。赤ん坊にオッパイを吸われるという母親としての歓びって言うのかしら。いってみれば本能的な母性みたいなもの……。それは味わいたかったの!!……それが淋しいといえば言えるわねぇ。いい歳をして変なことを言い出して、ごめんなさいね。……木瓜の花が綺麗だこと!!木瓜にも色々あるけど、あたし白い花がいちばん好きよ……」
最近のコメント