豆腐屋の水ふんだんに秋新た 腰川 瑛子
ことしも秋になりました。
人間の目にはわからずとも、自然の運行を司どる神様の目から見れば、去年とも一昨年とも異う、新しいことしの秋の訪れです。
お豆富屋さんは水を沢山使うご商売です。
炎える夏の間とは異なり、同じ水でも、新しい季節にはひんやりと澄んで心に身体に感じられます。
満々と水を張った大きな水槽の中の、真白ですべすべして、冷ややかで慎ましいお豆富……。四角い者同士が角ばらず円満に片寄せ合っているお豆富の佇まい。
ひとつひとつのお豆富は水槽の中で、人間の耳には聴こえない秋の歌を、静かに静かに小さな小さな声で唄っていることでしょう。
その唄声がはっきりと聴こえるひとは、きっと<詩人>と称(よ)ばれるひとたちだろうと思います。
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