煮立つもの蓋もちあげて夜の秋 小沢 初江
日中はたとえ夏でも、もう夜は“秋”です。
<ああ暑い、夏なんていっそのこと無きゃいいのよ>と言っていた人々も、少しづつ涼しくなり、やがて寒い季節を迎えるようになれば、それはそれで炎暑の頃を懐かしく想い出すかもしれません。
さて、<蓋もち上げて煮立つもの>とは、なにかお料理の煮物でもしているのでしょうか……。
おいしそうな匂いが辺り一面に流れ、お鍋の蓋が湯気でもち上ったり、また元に戻ったり……さかんにそれを繰り返しています。
南瓜でも煮ているのでしょうか。
外では鈴を転がしたような蟋蟀(こおろぎ)の鳴き声……。
用事があって今日は晩御飯がいつもよりだいぶ遅くなりました。台所の換気扇の間からはお月様が見え隠れしています。
<秋だわ、もう……>と、小さく溜息のように一声洩れて、なんとはなしに心は落ち着き、お料理の手順は今度は胡瓜もみにでも向かったことでしょう。
コメント