くちびるに雨のぽつりと桜冷え 彦根三津夫
<花冷え>ともいう<桜冷え>は、九州では三月下旬。関東地方では四月上旬、東北では四月中旬から下旬にかけての期間(あいだ)だといわれます。
桜の咲く頃は天気が変わり易く、にわかに薄ら寒い陽気になったりします。それにしても、なんという響きの美しい季語でありましょうか!?
朝からずうーっと曇っていました。用事があって外出し、その途中雨が降ってきました。降ってきたというよりは、冷たいものが落ちてきました。それを真っ先に感じたのは、頭でもなく手でもなく唇でした。唇であることが句の眼目と思われます。
<ああ、これじゃあ、折角桜が可哀そうだ。さぞ冷たかろう……昨日はあんなによく晴れていたのにこの変りようはどうだろう。……それにしても寒いな……>
作者は心にこんなことを呟き、暖房のきいているもよりの喫茶店にでも立寄って、暑いコーヒーを啜ったことでしょう。そして、いつもポケットに入れている句帖を取り出し、やおらこの句を認めたのかもしれません。
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