喪に急ぐ衿しろじろと春浅し 田畑 延子
あれほど元気だったひとが、急に亡くなりました。とても信じられないことなのですが、今日はそのお葬式でさう。いつも朗らかで親切で、この上なくお人好しで、誰からも好かれている人でした。
いのちのはかなさは老幼不定とはいえ、よりにもよってあんないい人が……と、胸元に突き上げてくる底知れぬ虚しさにさいまれながら、作者は、喪服に身を包んで、春とは名のみの冷たい道を急ぎ足で歩いているのでありましょう。
雲間に隠れて、ほんの少ししか顔を出していない太陽……。時折、それこそ花のように舞い降りてくる白い風花は、それと同じ色の喪服の襟にも止まったりします。それを何げなしに指で押さえ、そのひとが生きていた日々のおつきあいのあれやこれやに思いを馳せながら、頬に流れる涙も、すぐに外気の冷たさに吸い込まれてゆきます。<もうすぐ本当の春が来るというのに……>、大切だった友人の死が惜しまれて惜しまれてならないのです。
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