もう一度百まで雪の夜の風呂 吉田花宰相
雪に悩む北国の方々からは不見識だというお叱りを受けそうですが、雪を珍しく思う地方に住む人にとって、この白いものに寄せる想いは、どこか幻想的で粋で品がよく、また、なにかしら哀愁に満ちたイメージがあります。
<雪の夜に雨戸にさっとおとずるを、もしやと開けて銀世界、寒さをしのぐ置炬燵、もはや七つか寝いられぬ>といった小唄の世界など情緒深いものです。さてこの句、静かな雪の夜お風呂に入っているのは、優しいお爺ちゃんと愛らしいお孫さんでしょうか? その会話です。たとえば、
「お爺ちゃんもう出ていい?」「風邪を引くといけないから、もう一度百まで勘定して……そしたら出ていいよ」「さっき数えたばかりじゃないか……、大人はそれでいいかも知れないけどさ……ぼく茹でタコになっちゃうよ。出るからね……いいね、入っていたけりゃ、お爺ちゃん一人で入ってなよ!!」
顔を真っ赤にして坊やはフーッと溜息をつき、風呂場の外に出ました。さて独り湯舟に残ったお爺ちゃん、遠い昔の唱歌でも唄い出したでしょうか……。雪が止む気配はありません。
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