嫁がせて終の栖(すみか)に落葉焚く 松本 昭子
当マイクロフォン……女の子の父親には遂にならずじまいでしたが、最近、長男がお嫁さんをもらったこともあり、また親友のお嬢さんの結婚式にも出席したりして、嫁を嫁がせた両親のほっと一安心の喜びの裏側にひそむ穴のあいたような寂しさ、虚脱感は、手に取るようによく解る心算です。世に言う<花嫁の父>ならずとも、女親にとって娘は実際にお腹をいためて産んだ子供です。その感慨の複雑さはいかばりでありましょう……。
この句、娘の結婚式を終えたばかりの初老の母親が、ひとり庭の落葉を掃き集めて焼いているのでしょう……。彼女の眼にうっすらと涙が浮んでいるのは、<今頃、あの子は何をしているのだろう……>との想いからで、あながち、燃える落葉の薄青い煙が、目に染みたからだ、とばかりは言えません。
子育ての任務を終わり、主人と二人いのち尽きるまでの日までを。この家にこの先長く送るのです。無我夢中であたふたと過ぎて行った永い歳月をぼんやりと振り返り、親とは、人間とは、一体何なんだろう……と、棒か何かで落葉の火を掻き立てているのでありましょう。
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