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ひぐらしに燈火はやき一間かな 久保田万太郎
まだ暗闇は訪れていない黄昏のひととき、原稿用紙に向かって熱心に執筆しています。手元がいささか昏くなったなと思い、やおらスタンドの灯りを点けました。すると、カナカナカナ……。とひぐらしの声……。あと十枚か、ああ疲れたな……。とでも呟いて煙草に火をつけ、肩の凝りを自らの手でほぐす作者の心の奥深くまで、カナカナカナ……。ひぐらしの声はしみ透るようです。
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