至極当たり前のことを言うようですが、放送番組づくりは、制作の企画にあたるプロデューサーをはじめとして、数多くのスタッフの協力で出来あがるものです。
テレビの場合でいえば、ディレクター(演出者)、放送機器操作関係の技術陣(スタジオカメラマンや照明も技術職員です)、さらには美術、大道具、小道具を担当する職員など、そうした人々が力を合わせた総合的な結果、番組は一つ一つ出来あがるものであり、たとえば花形番組を担当して、テレビの画面に顔を出し、世間から、いわゆるスターアナウンサーと称ばれて活躍している人々といえども、すべて、こうしたスタッフの協力、支援なくしては、身動き一つできません。
このことは、ラジオの場合、スタッフの人数こそ、テレビに較べてすくないとはいえ、基本的には同じです。
表面(という言葉は厭ですが)にでているのはアナウンサーであったとしても、それは、アナウンサーという、あくまで職能の範囲内の事柄というか、役割があって、みなNHKを職場とする仲間の集まりなのです。
アナウンサーは、このことを、いつも念頭に置いておかなければならないと私(わたくし)は思っています。
俗な言葉で失礼ですが、誰が偉くて誰が偉くないのではなく、要するに皆同じなのです。
一人のアナウンサーが活躍してる場合に於いても、どんなに多くの蔭の人(これも僭越な言い方で好みませんが)が熱心に働いていることか……。
私は、このことに、いつも想いを馳せていたいと思います。
番組の制作は、きわめて近代的な建物の内で行われてはいますが、内容は手作りの行為です。手作り過ぎるといっていいくらい手間がかかるものです。
一人一人のスタッフの、夫々(それぞれ)精一杯の手作りの努力が結集して、一つの番組は、はじめて電波にのるのです。
それは、個人の生活が、社会という連帯のなかで営まれているのと同じことです。
仲間うちのことですが、私は、この本の最初に、このことを、まず申し上げておきたいと思います。
そして、この事に想いを至すか、至さないかによって、アナウンスは生きもし、死にもするのです。
昔、小学校の黒板の横に担任の先生が、毛筆で、しかも大きな文字で<みんななかよく>と書いて、貼ってあったのを、私は今、ふと、なつかしく思い出しました。
スタッフが、仲良く力を合わせなければ、決していい番組はできません。
そして、すこしでもいい番組にしなければみなさんからも視てもいただけず聴いてもいただけないのです。視聴者の皆さんの御支援にあずかれないのです。もっといえば視聴者の皆さんの御協力があってこそ、番組は成り立っているのです。
二十四年という長いアナウンサー生活を送ってきた私は、停年の日まで、この想いだけは決して消すまいと、われとわが心に誓っています。
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