ちちろ鳴く縄文土器の展示場 内田 滋子
紀元前七、八千年から数千年にわたる新石器時代が縄文時代と称ばれ、その時代の縄や蓆(むしろ)の編目の文様がついている土器が縄文土器であることはご存知の通りです。
その土器が展示されている処というのですから、きっと博物館かなにかだと思われます。
耳が遠くなるような、気が遠くなるような時間をさかのぼり、そこに産まれた文化や文明の持つ偉大さ、不思議さ、そして重量感……。
作者は悠久の歴史に想いを馳せながら、深い感慨に打たれているのでありましょう。
そして、<いま>という現実のこの刻(とき)に<ちちろ>つまり蟋蟀(こおろぎ)が鳴いているのです。
縄文時代にも蟋蟀は鳴いていたのだろうか……、そんな想いもふと心をよぎります。
見学者もほとんどいない閉館まぎわの博物館の、底知れぬ静けさ……。
その静けさを蟋蟀の声はますます深くしているようです。
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