屑籠の文読みかへし春愁ひ 藤井 亘
誰から来た手紙なのでしょうか……。
一度読んで屑籠に棄て、想いが残ってまた取り出して読み返している手紙は、諦めた筈の心を揺るがすものだったのでしょうか……。
哀しみの果てに、ようやくのことで到達した決意を、甘やかにまた元(もと)に引き戻す内容なのでしょうか……。
未練といえば未練な、弱い心を抑え切れない春のさなか、<なんだってまた、こんな手紙を寄越したのだ>と思いつつ、美しい手紙の文字に、両の眼はいつしか潤んでいるのかも知れません。
その潤んだ眼に季節はきっと朧ろにしか見えないことでしょう。
無精髭を細い長い指で撫でながら、春の愁いののこ遺る瀬無さに、男はじっと耐えているのでありましょうか……。
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