病む人の裾の糸屑草いきれ 木場田秀俊
真夏、生い茂った草が炎暑にやかれてかもしだす、むせかえるような青臭い匂いと熱気が草いきれです。
彼はそのような草叢を通って病人とともにゆっくりと歩いています。病人といってもそろそろ回復期に近い人なのでしょうが、まだなんとなく弱々しく顔色もさえず、痩せた身体にうすものの和服を着ています。病気見舞のお礼にと訪れた中年の女性でありましょうか……彼はその女性を送りがてら、野の径にでました。
<いやぁ、大変な生命力ですな、この炎える日盛りに雑草たちは……あなた、気分がわるくありませんか? 草いきれで、かなり匂いますな……いや、わるいことをした……>
<いいえ、大丈夫です。そんなにお気にかけてくださらなくても……あたくしもこんな風にしっかりと生きたいと思いますけど、それがなかなか……うらやましいですわ、草々が……>
<気持ちをつよくお持ちにならなきゃいけませんよ。あの、裾の方に糸屑が……>と指しました。
<あら、ほんと、おはずかしいこと>と婦人はちょっと顔をあからめ、身をかがめてそれを取り去りました。その力なく、なにげない仕草を美しいと思いつつ、彼は蒲柳の質で病の絶えない婦人の身の上に、しみじみ哀れをおぼえたことでありましょう……。
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